株式譲渡と事業譲渡で使う補助金|スキーム別の要件
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公開: 2026年9月11日
更新: 2026年9月11日
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この記事の結論
中小企業のM&Aや事業承継で選ばれるスキームは、大きく分けて株式譲渡(持分譲渡を含む)と事業譲渡です。事業承継・M&A補助金は、このスキームの違いを明確に意識して設計されており、どの枠に申請できるか、どの要件を満たす必要があるかがスキームによって変わります。
スキームが決まると、使える枠が決まる
中小企業のM&Aや事業承継で選ばれるスキームは、大きく分けて株式譲渡(持分譲渡を含む)と事業譲渡です。事業承継・M&A補助金は、このスキームの違いを明確に意識して設計されており、どの枠に申請できるか、どの要件を満たす必要があるかがスキームによって変わります。
まず全体像を押さえてください。16次公募(令和7年度補正予算)の4つの枠と、スキームとの対応は次のとおりです。
| 枠 | 想定するスキーム | 第三者とのM&A |
| 事業承継促進枠 | 法人は同一法人内の代表者交代と株式・持分等の移転、個人事業主は事業譲渡 | 対象外 |
| 専門家活用枠 | 経営資源の譲り渡し・譲り受け全般(株式譲渡・事業譲渡いずれも) | 対象 |
| PMI推進枠 | 事業再編・事業統合(株式譲渡・事業譲渡・吸収分割等) | 対象 |
| 廃業・再チャレンジ枠 | スキームを問わず、承継やM&Aに伴う一部廃業、または譲り渡せなかった場合の廃業 | 併用または単独 |
最も多い誤解
事業承継促進枠は、M&Aによる第三者承継を対象としていません。対象は5年以内に親族内承継・従業員承継等(事業再生を伴うものを含む)を予定している中小企業者等です。株式を第三者に譲渡する計画でこの枠に申請しても、資格審査の段階で対象外になります。
したがって、最初にやるべきことは補助金の比較ではなく、誰に、どのスキームで引き継ぐのかを決めることです。スキームが決まれば枠は自動的に決まり、枠が決まれば必要書類と締切から逆算した準備が始められます。
枠の比較は4つの枠の違い、制度全体は完全ガイドで整理しています。
株式譲渡と事業譲渡は、制度上どう扱いが違うのか
株式譲渡は会社という器ごと移転するスキーム、事業譲渡は会社の中にある事業(設備・従業員・取引先など)を個別に移転するスキームです。補助金の要件を読むうえで効いてくる違いを整理します。
| 観点 | 株式譲渡 | 事業譲渡 |
| 移転の対象 | 株式(持分)。会社そのものは存続する | 個別の資産・負債・契約。会社は残る(または廃業する) |
| 事業承継促進枠での位置づけ | 法人の親族内・従業員承継で、経営権とあわせて所有権が移転する形 | 個人事業主の承継で用いられる形(被承継者の廃業と承継者の開業) |
| 専門家活用枠での位置づけ | 経営資源の譲り渡し・譲り受けとして対象 | 同じく対象 |
| PMI推進枠での追加要件 | 承継者側の議決権が過半数に達することが必要(承継前から過半数を保有していた場合は対象外) | 有機的一体の経営資源(設備・従業員・顧客等)の引継ぎが必要。不動産業以外でも原則として常時使用する従業員1名以上の引継ぎが必要 |
| 取引価格 | 譲渡価格0円や株価1円など、取引価格の合理性が確認できない取引はPMI推進枠の対象外 | 同様に合理性が問われる |
ここで注目したいのは、PMI推進枠が事業譲渡に対して従業員1名以上の引継ぎを求めている点です。設備や不動産だけを買い取る取引は、制度上は事業の統合ではなく資産の取得と評価されます。物品・不動産等のみの売買はPMI推進枠の対象外と明記されています。
あわせて、事業承継促進枠の側にも「実質的な事業承継が行われたとみなされない」例が列挙されています。経営権と所有権のいずれの移転も伴わない代表者交代のみ、グループ内の事業再編、物品・不動産等のみを保有する事業の承継(売買を含む)、フランチャイズ契約またはそれに準ずるもの、従業員等へののれん分け(またはそれに準ずるもの)、休眠会社・事業実態が無い状態での代表者交代、設立間もない法人での代表者交代や開業直後の事業譲渡でその正当性が確認できない場合、合同会社の社員間で代表社員を交代したが経営者交代とみなされない場合、などです。スキームの形式が整っていても、実態として事業が移っていなければ対象になりません。
また、株式譲渡の場合には議決権の要件があります。承継後に承継者側の議決権が過半数に達しない場合は対象外(ただし吸収分割・事業譲渡を除く)、承継前から承継者側が既に議決権の過半数を保有していた場合も対象外です。少数株主としての追加取得や、すでに支配下にある会社の株式整理は、M&Aによる事業統合とは評価されません。
事業承継促進枠で認められるスキーム
親族や従業員へ引き継ぐ場合に使う事業承継促進枠は、スキームの記述がとくに具体的です。
| 申請者の形態 | 対象となるスキーム | 移転するもの | 申請単位 |
| 法人 | 代表者交代(同一法人内) | 経営権と所有権(株式・持分等)の両方 | 原則、被承継者を補助対象者として申請 |
| 個人事業主 | 事業譲渡(被承継者の廃業と承継者の開業) | 経営権と所有権(事業用資産等)の両方 | 被承継者と承継予定者の共同申請が必須 |
法人の欄にある「同一法人内」という言葉が重要です。この枠は、別会社へ株式を譲り渡すM&Aではなく、同じ法人の代表者が交代し、あわせて株式・持分等の所有権が移転することを想定しています。承継予定者の要件も、この前提で組まれています。
| 承継予定者の要件(法人の場合、いずれかに該当) |
| 対象会社の役員として3年以上の経験がある |
| 対象会社に継続して3年以上雇用され、業務に従事している |
| 役員経験と従業員経験の通算が3年以上ある |
| 被承継者の親族(六親等内の血族・配偶者・三親等内の姻族)であり、対象会社の代表経験が無い |
あわせて、公募申請時点で対象会社が3期分の決算・申告を完了していること(個人事業主は開業届の提出から5年経過)、そして事業承継対象期間(公募申請受付終了日から5年後まで。16次公募では2026年11月6日から2031年11月5日まで)に承継を完了する蓋然性が高いことを、認定経営革新等支援機関に確認してもらう必要があります。
詳しい要件は事業承継促進枠、承継形態別の使い分けは親族内承継と従業員承継にまとめています。
ホールディングス承継という例外スキーム
事業承継促進枠には、承継予定者が個人として株式を取得するのではなく、承継予定者が所有する法人(ホールディングス会社)が株式を取得するスキームについての例外規定があります。実務で株価が高い会社の承継に使われる形です。
| ホールディングス承継が認められる要件(すべて満たすこと) |
| 被承継者がホールディングス会社に出資していないこと |
| 承継予定者がホールディングス会社の株式を議決権ベースで3分の2超保有していること |
| ホールディングス会社が申請者法人の株式を100%保有すること |
この3要件は、いずれも「実質的に承継予定者が所有権を握っているか」を確認するためのものです。被承継者がホールディングス会社に出資していれば、結局は所有権が移転していないと評価されますし、承継予定者の持分が3分の2以下であれば承継予定者の支配が確立しません。
スキームの設計は税務・法務と一体で考える
ホールディングス承継は、株価対策や資金調達を含む複合的な設計になります。事業承継・M&A補助金の要件は、そうした設計のうち補助金側から見た最低条件にすぎません。事業承継税制(相続税・贈与税の納税猶予制度)は本補助金とは別の制度であり、経営承継円滑化法に基づく都道府県知事の認定が必要です。両制度の関係については、最新の要件を中小企業庁・国税庁の一次情報で確認したうえで、税理士に相談してください。
税制との違いは事業承継税制と補助金の違いで整理しています。
第三者への株式譲渡・事業譲渡は専門家活用枠
第三者とのM&Aは、株式譲渡でも事業譲渡でも専門家活用枠の管轄です。この枠はスキームそのものを制限していない代わりに、経費の側で厳しい条件がかかります。
| 類型 | 対象 | 補助率 | 補助下限額 | 補助上限額 | DD費用上乗せ | 廃業費併用 |
| 買い手支援類型(通常) | 経営資源を譲り受ける予定の中小企業等 | 2/3以内 | 50万円 | 600万円 | 200万円(合計800万円) | 300万円 |
| 売り手支援類型(通常) | 経営資源を譲り渡す予定の中小企業等 | 1/2または2/3以内 | 50万円 | 600万円 | 200万円(合計800万円) | 300万円 |
| 買い手支援類型(100億企業特例) | 将来売上高100億円を目指す買い手 | 1,000万円以下は1/2、1,000万円超〜2,000万円は1/3 | 50万円 | 2,000万円 | ー | 300万円 |
| 小規模売り手支援類型 | 小規模事業者等に該当する売り手 | 2/3以内 | なし | 450万円 | ー | 150万円 |
スキームに関係なく効いてくる条件が2つあります。ひとつはFA・仲介費用の取り扱い、もうひとつは契約の締結時期です。
委託費のうちFA業務・仲介業務に係る相談料・着手金・中間報酬・成功報酬等は、M&A支援機関登録制度に登録された登録FA・仲介業者が支援したものに限り補助対象です。未登録業者への支払いは対象外になります。さらに、相見積りの相手も登録FA・仲介業者である必要があり、相見積りで最低価格を提示していない業者を選んだ場合は補助対象外とされています(16次公募 専門家活用枠 よくある質問 Q9)。
契約の締結時期については、中間報酬の根拠となる基本合意書の締結、成功報酬の根拠となる最終契約の締結が、補助事業期間内に、かつ専門家契約の締結後に行われている必要があります。専門家契約の締結前にすでに基本合意や最終契約を結んでいた場合は原則として対象外で、覚書等で契約日を期間内に延長する行為も原則として認められません。スキームの検討と並行して、いつ誰と契約するかを補助金のスケジュールに合わせて設計する必要があります。
手数料の扱いはFA・仲介手数料と補助金、登録制度は登録M&A支援機関とはで解説しています。
クロージングできなかった場合、スキームに関係なく上限が縮む
M&Aは必ず成立するとは限りません。専門家活用枠には、補助事業期間内に経営資源の引継ぎ(クロージング)が実現しなかった場合の規定があります。
| 類型 | クロージングした場合の上限 | クロージングしなかった場合の上限 | 対象経費の扱い |
| 買い手・売り手支援類型(通常) | 600万円(DD費用上乗せで最大800万円) | 300万円 | 原則DD費用のみ |
| 買い手支援類型(100億企業特例) | 2,000万円 | 300万円 | 原則DD費用のみ |
| 小規模売り手支援類型 | 450万円 | 50万円 | 原則DD費用のみ |
この規定が意味するのは、成立しなかったときに残るのはDD費用だけということです。逆に言えば、DDをきちんと実施し、その費用を対象経費として計上できる形にしておくことが、案件が流れたときの最後の受け皿になります。
DDを自社で実施すると費用は計上できない
買い手支援類型ではデュー・ディリジェンスの実施が実質的に必須とされており、専門家に依頼せず自社で実施した場合、DD費用を補助対象経費に計上することはできません。売り手側でもDDの実施と費用計上は可能ですが、実務上のケースは限定的とされています。
PMI推進枠を同時に使う場合も、クロージングの成否が影響します。専門家活用枠と同一回で申請した場合、専門家活用枠側のM&Aがクロージングしなかったときは、PMI推進枠側も補助対象外になります。単独申請の場合は、公募申請時点でM&Aのクロージング日から3年以内の取組であることが要件です。
DD費用の扱いはデューデリジェンス費用と補助金で詳しく扱っています。
事業譲渡で残った器をどうするか、廃業費の上乗せ
事業譲渡を選んだ場合、譲り渡した後に器(法人または個人事業)と、譲渡の対象にならなかった資産・設備・在庫が残ります。株式譲渡では会社ごと移るためこの問題は生じませんが、事業譲渡では残ったものの整理に費用がかかります。ここで使えるのが廃業・再チャレンジ枠の併用申請です。
併用申請は、事業承継促進枠・専門家活用枠(買い手・売り手・小規模売り手)・PMI推進枠のいずれかと同時に申請し、承継・M&A・PMIに伴って既存事業や譲り受けた事業の一部を廃業する場合に使います。この場合、廃業・再チャレンジ枠への別申請は不要で、該当する枠への上乗せとして処理されます。補助率も主枠の補助率に従います。
| 対象経費(7区分) | 事業譲渡の場面での具体例 | 注意点 |
| 廃業支援費 | 司法書士への登記申請手続き経費 | 登記に係る手続き経費が対象 |
| 在庫廃棄費 | 譲渡対象から外れた商品在庫の処分 | 売却して対価を得る場合は対象外 |
| 解体費 | 使わなくなった設備・建物の解体 | 交付決定後の契約・支払いであること |
| 原状回復費 | 賃借していた店舗・工場の明渡し | 賃貸借契約の内容と整合させる |
| リースの解約費 | 譲渡しない機械のリース解約 | ファイナンスリースの解約金・違約金は対象外 |
| 土壌汚染調査費 | 工場跡地の調査 | 対象経費として明記されている区分 |
| 移転・移設費 | 残す事業の設備を別拠点へ移す | 承継・M&Aに伴うものであること |
上乗せ上限は300万円(専門家活用枠の小規模売り手支援類型と併用する場合は150万円)、補助下限額は50万円です。廃業費用のみで300万円を申請することはできず、事業費側の申請とセットであることが前提とされています。単独で申請できるのは、M&Aで事業を譲り渡せなかった中小企業者等の株主・個人事業主が、新たなチャレンジのため既存事業を廃業する再チャレンジ申請の場合だけです。
詳しくは廃業費用と補助金をご覧ください。
PMI推進枠で「実質的な事業再編とみなされない」スキーム
承継後の統合費用を見るPMI推進枠には、対象外となる取引が具体的に列挙されています。スキームを設計する段階で確認しておく価値があります。
| 対象外とされる例 | 理由の整理 |
| グループ内の事業再編 | 支配関係が変わらず、第三者間のM&Aとはいえない |
| 物品・不動産等のみの売買 | 事業の統合ではなく資産の取得 |
| 親族間の事業承継 | 事業承継促進枠の管轄であり、PMI推進枠の想定外 |
| 被承継者・株主と承継者が同族関係者・支配関係にある法人間の取引 | 実質的に同一の経済主体の中での移転 |
| 承継後に承継者側の議決権が過半数に達しない場合(吸収分割・事業譲渡を除く) | 支配権が移転していない |
| 承継前から承継者側が既に議決権の過半数を保有していた場合 | もともと支配下にあった |
| 譲渡価格0円や株価1円など、取引価格の合理性が確認できない取引 | 取引の実在性・合理性が確認できない |
| 事業譲渡で有機的一体の経営資源(設備・従業員・顧客等)の引継ぎが行われていない場合 | 事業ではなく資産の移転にとどまる |
| 休眠会社・事業実態が無い会社でのM&A | 統合すべき事業が存在しない |
実務で特に注意したいのは、譲渡価格が名目的な金額になるケースです。赤字や債務超過の会社を引き受ける際、株価1円や譲渡価格0円という条件になることは珍しくありませんが、PMI推進枠ではこれが対象外の例として明記されています。スキームの設計段階で、価格の合理性を説明できる評価資料を残しておくことが必要です。
PMI推進枠の対象経費についても、スキームと関係する制約があります。事業統合投資類型では、委託費のうちM&A仲介手数料・DD費用・M&Aコンサルティング費用・PMI専門家への手数料は対象外です。これらはPMI専門家活用類型または専門家活用枠側で申請するものとして整理されています。同じM&A関連費用でも、計上する類型を間違えると認められません。
詳細はPMI推進枠で解説しています。
スキームを決める前に確認する実務チェック
ここまでの内容を、スキームの検討段階で使えるチェックリストにまとめます。
| 確認項目 | 株式譲渡の場合 | 事業譲渡の場合 |
| 相手は誰か | 親族・従業員なら事業承継促進枠、第三者なら専門家活用枠 | 個人事業主の承継なら事業承継促進枠、第三者なら専門家活用枠 |
| 議決権はどうなるか | 承継後に過半数(PMI推進枠を使う場合)。HD承継なら3分の2超の要件あり | 議決権要件は適用外(吸収分割・事業譲渡は除外規定) |
| 従業員は移るか | 会社ごと移るため通常は問題にならない | PMI推進枠では原則として常時使用する従業員1名以上の引継ぎが必要 |
| 価格の合理性を説明できるか | 株価1円などは対象外の例に該当 | 譲渡価格0円などは対象外の例に該当 |
| 仲介・FAは登録機関か | 登録M&A支援機関でなければ委託費は全額対象外 | 同左 |
| 契約はいつ結ぶか | 専門家契約の後に基本合意・最終契約が来る順序にする | 同左 |
| 交付決定はいつか | 16次公募は2027年1月下旬以降に順次(予定)。それ以前の契約・発注・支払いは対象外 | 同左 |
16次公募のスケジュールは、公募申請受付が2026年10月2日(金)から11月6日(金)17時まで、採択日が2026年12月下旬以降に順次、交付決定日が2027年1月下旬以降に順次(いずれも予定)です。補助事業期間は2027年1月下旬予定から14か月以内を想定すると各枠の公募要領に明記されています。M&Aの交渉は相手のある話なので、この期間に主要な契約と支払いが収まるかを、スキームの検討と同時に確認してください。
採択と交付決定は別物
採択は交付申請をする権利の保障であり、交付決定ではありません。交付決定前に着手した経費は対象外です。また、補助金は実費弁済(精算払い)で、事業完了・実績報告・額の確定を経た後払いです。資金繰りはこの前提で組んでください。
申請の全体像は申請の流れ、精算までの手順は実績報告と精算にまとめています。
出典・参考情報
最終更新日: 2026年9月11日。制度の内容・スケジュールは変更される場合があります。必ず各公式サイトで最新情報を確認してください。個別のスキーム設計に伴う税務・法務の判断は、税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。本記事は採択や補助額を保証するものではありません。