事業承継促進枠とは|対象・補助率2/3・上限1000万円
制度・仕組み
公開: 2026年9月11日
更新: 2026年9月11日
読了目安: 3分
公募中 9件
この記事の結論
事業承継促進枠は、5年以内に親族内承継または従業員承継等(事業再生を伴うものを含む)を予定している中小企業者等が対象の枠です。承継を機に行う設備投資や販路開拓などの取組にかかる費用を、国が1/2または2/3の割合で補助します。
事業承継促進枠とは(どんな会社が使う枠か)
事業承継促進枠は、5年以内に親族内承継または従業員承継等(事業再生を伴うものを含む)を予定している中小企業者等が対象の枠です。承継を機に行う設備投資や販路開拓などの取組にかかる費用を、国が1/2または2/3の割合で補助します。
この枠の位置づけを理解するには、制度の再編の経緯を知っておくと早いです。令和2年度から令和5年度(1次から10次公募)の時期、この補助金は「経営革新事業」という名前で、創業支援型・経営者交代型・M&A型の3類型を持っていました。令和6年度の名称変更(事業承継・引継ぎ補助金から事業承継・M&A補助金へ)と同時にこれが「事業承継促進枠」へ再編され、当時あった創業支援型の区分は現行の事業承継促進枠には存在しません。M&Aによる承継も専門家活用枠の管轄へ整理されたため、現行の事業承継促進枠は親族内承継と従業員承継のみを扱う枠になっています。
この枠でM&Aは申請できません
株式譲渡や事業譲渡によって第三者へ引き継ぐ形は、事業承継促進枠の対象外です。法人の場合は同一法人内での代表者交代のみが対象で、個人事業主の場合は事業譲渡(被承継者の廃業と承継者の開業)が対象です。第三者承継を検討している場合は専門家活用枠を確認してください。
16次公募における日程は、公募申請の受付が2026年10月2日(金)から2026年11月6日(金)17:00まで、採択が2026年12月下旬以降、交付決定が2027年1月下旬以降の予定です。補助事業期間は2027年1月(下旬予定)から14か月以内と公募要領に明記されています。
対象になる事業承継・ならない事業承継
この枠でもっとも重要なのが「実質的な事業承継が行われたと認められるか」という判定です。公募要領には、認められない例が具体的に列挙されています。
| 形態 | 判定 | 理由 |
| 親から子への株式譲渡と代表者交代 | 対象 | 経営権と所有権の両方が移転している |
| 役員経験3年以上の従業員への株式譲渡と代表者交代 | 対象 | 承継予定者の経験要件を満たしている |
| 代表者だけを交代し、株式は現社長が持ち続ける | 対象外 | 経営権と所有権のいずれの移転も伴わない代表者交代のみ |
| グループ内での事業再編 | 対象外 | 実質的な事業承継とみなされない |
| 物品・不動産等のみを保有する事業の承継(売買を含む) | 対象外 | 事業実態のある承継とみなされない |
| フランチャイズ契約またはそれに準ずるもの | 対象外 | 公募要領に明記 |
| 従業員等へののれん分け(またはそれに準ずるもの) | 対象外 | 公募要領に明記 |
| 休眠会社・事業実態が無い状態での代表者交代 | 対象外 | 承継すべき事業が存在しない |
| 設立間もない法人での代表者交代、開業直後の事業譲渡でその正当性が確認できない場合 | 対象外 | 制度趣旨に合致しない |
| 合同会社の社員間での代表社員交代が経営者交代とみなされない場合 | 対象外 | 公募要領に明記 |
| M&Aによる第三者承継(株式譲渡・事業譲渡) | 対象外 | 専門家活用枠の管轄 |
判定の軸は一貫しています。経営権(代表の座)と所有権(株式・持分等)の両方が、被承継者から承継者へ実際に移ること。この2つが揃わない形はすべて弾かれると考えてください。とくに「まずは代表だけ交代して、株はおいおい」という段取りは実務では珍しくありませんが、この枠では対象になりません。
なお、事業再生を伴う承継も対象に含まれます。業績が厳しい会社の承継が制度の視野から外れているわけではありません。
承継予定者に求められる要件(3年ルールと親族の範囲)
承継する側の人物にも要件があります。法人か個人事業主かで内容が変わります。
法人の場合
次のいずれかに該当することが必要です。
| 区分 | 要件 |
| 役員経験 | 対象会社の役員として3年以上の経験がある |
| 従業員経験 | 対象会社に継続3年以上雇用され、業務に従事している |
| 通算経験 | 役員経験と従業員経験の通算が3年以上ある |
| 親族 | 被承継者の親族(六親等内の血族・配偶者・三親等内の姻族)であり、対象会社の代表経験が無い |
親族が承継する場合は勤務経験の年数を問われませんが、代わりに対象会社の代表経験が無いことが条件になります。一度社長を務めた人が返り咲く形は想定されていないということです。親族の範囲は六親等内の血族、配偶者、三親等内の姻族という民法上の定義に沿っており、いとこの子や配偶者の甥姪まで含まれるかなり広い範囲です。
個人事業主の場合
承継予定者は、継続3年以上の雇用経験者、または被承継者の親族(対象会社の代表経験が無い者)であることが必要です。加えて、個人事業主の承継では被承継者と承継予定者の共同申請が必須です。法人の代表者交代とは異なり、個人事業主の承継は法律上は被承継者の廃業と承継者の開業という2つの手続きになるため、双方が申請者として関与する設計になっています。
申請の名義は、原則として被承継者を補助対象者とします。承継予定者が単独で申請する形ではない点に注意してください。
対象会社と申請単位の要件
会社側にも条件があります。制度が支援したいのは「実際に事業を営んできた会社の世代交代」であるため、事業の実績が確認できることが前提です。
| 項目 | 要件 |
| 決算の実績 | 公募申請の時点で対象会社が3期分の決算・申告を完了していること |
| 個人事業主の場合 | 開業届の提出から5年経過していること |
| 移転するもの | 経営権と所有権(株式・持分等)の両方が被承継者から承継者へ譲渡されること |
| 承継の期限 | 事業承継対象期間(公募申請受付終了日から5年後まで)に承継を完了する蓋然性が高いこと。16次公募の場合は2026年11月6日から2031年11月5日まで |
| 第三者の確認 | 認定経営革新等支援機関による確認が必要 |
| 事業者の範囲 | 中小企業基本法第2条に準拠した中小企業者等。みなし大企業・みなし同一法人(親会社が議決権50%超を持つ子会社等)は対象外 |
| 対象外の法人格 | 社会福祉法人、医療法人、一般社団法人・一般財団法人、学校法人、農事組合法人、組合等。法人格のない任意団体も対象外 |
ホールディングス会社を使った承継(HD承継)
承継予定者個人ではなく、承継予定者が所有する法人(HD会社)が株式を取得する形も、次の3条件をすべて満たせば対象になります。
- 被承継者がHD会社に出資していないこと
- 承継予定者がHD会社の株式を議決権ベースで3分の2超保有していること
- HD会社が申請者法人の株式を100%保有すること
この例外規定があることで、株式の取得資金を法人で調達するスキームも制度の枠内に収まります。ただし条件は厳密で、被承継者が少しでもHD会社に出資していると要件を外します。
もうひとつ、認定経営革新等支援機関の確認書は必ず必要になります。事業承継促進枠では事業承継の蓋然性を確認する書類という位置づけです。公募要領には、申請締切の直前は確認依頼が集中して間に合わない場合があるため余裕を持った依頼が必要という注意書きがあります。顧問税理士が認定支援機関かどうかを最初に確認してください。
補助率・補助上限額と賃上げ要件
金額の条件は次のとおりです。
| 区分 | 補助率 | 補助下限額 | 補助上限額 |
| 通常(小規模事業者等以外) | 補助対象経費の1/2以内 | 100万円 | 800万円(賃上げ要件達成で1,000万円) |
| 小規模事業者等 | 補助対象経費の2/3以内 | 100万円 | 800万円(賃上げ要件達成で1,000万円) |
| 廃業・再チャレンジ枠との併用 | 事業費の補助率に従う | ー | 300万円の上乗せ |
補助下限額が100万円である点に注意してください。補助額が100万円に満たない小規模な取組は、この枠では受け付けられません。補助率2/3で計算すると、補助対象経費が150万円以上あってはじめて下限に届きます。
小規模事業者等の定義
補助率が1/2から2/3に上がる小規模事業者等の定義は、従業員数で決まります。
| 業種 | 従業員数の基準 |
| 製造業その他 | 20人以下 |
| 商業(卸売業・小売業) | 5人以下 |
| サービス業 | 5人以下 |
| 宿泊業・娯楽業 | 20人以下 |
賃上げ要件(上限を1,000万円に引き上げる条件)
補助上限額を800万円から1,000万円に引き上げるには、次の条件を満たす必要があります。
- 補助事業完了日を含む事業年度(基準年度)から翌年度にかけて、従業員1人当たり給与支給総額の上昇率3%以上を達成すること
- 公募申請時までに、全従業員および役員へその内容を表明していること
引き上げが認められた場合でも、800万円を超える部分の補助率は一律1/2以内になります。小規模事業者等であっても、800万円超1,000万円までの200万円分は2/3ではなく1/2で計算されるということです。
賃上げが未達なら返還です
賃上げ要件を達成できなかった場合、引き上げ額(最大200万円)の返還を求められます。事業計画期間中の各年度末で水準を維持できない場合も同様です。さらに、加点事由として賃上げを申請して交付決定を受けたのに事業化状況報告で未達だった場合、未達報告から18か月間、中小企業庁が所管する他の補助金の申請で正当な理由なく大幅に減点されます。対象にはものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金、IT導入支援事業、小規模事業者持続化補助金、事業再構築補助金、新事業進出補助金、中小企業省力化投資補助事業などが含まれます。無理な水準で表明しないでください。
生産性向上要件(付加価値額の年3%)
事業承継促進枠には、他の枠にない計画上の要件があります。補助事業期間を含む5年間の計画において、付加価値額または1人当たり付加価値額の伸び率が年3%以上向上する計画であることです。
ここでいう付加価値額は、公募要領で次のように定義されています。
付加価値額の計算式
付加価値額 = 営業利益 + 人件費 + 減価償却費
この式の意味を押さえておくと、計画の書き方が変わります。営業利益だけでなく人件費と減価償却費も足し込むため、賃上げをすれば付加価値額は上がり、設備投資をして減価償却が増えても付加価値額は上がるという構造になっています。補助金で設備を導入し、その効果で売上と利益を伸ばし、あわせて賃上げをするという流れは、そのまま付加価値額の向上につながります。
もうひとつ選択肢があります。「付加価値額」ではなく「1人当たり付加価値額」の伸び率で満たしてもよいという点です。従業員数が横ばいまたは減少する見通しの会社では、1人当たりで見たほうが達成しやすい場合があります。どちらの指標で計画を立てるかは、自社の従業員数の見通しをふまえて選んでください。
年3%を5年間という水準は、複利で見ると5年後に約1.16倍です。極端に高いハードルではありませんが、根拠のない右肩上がりの数字を並べても審査では評価されません。審査の着眼点は【取組の目的・必要性】【取組の実現可能性】【取組の収益性】【取組の継続性】の4点ですので、伸び率の根拠を取組の中身と結びつけて説明する必要があります。
対象経費と対象外経費
事業承継促進枠では、承継を機に行う設備投資や販路開拓などの取組にかかる費用が対象になります。一方で、承継そのものに伴って動くお金の多くは対象外です。この区別が曖昧なまま計画を作ると、交付申請の段階で大幅に減額されます。
| 費用 | 扱い | 根拠 |
| 被承継者に支払う譲受費用(土地・資産の購入費用等) | 対象外 | 事業承継促進枠 公募要領9章に明記 |
| 売上原価に相当する経費 | 対象外 | 全枠共通 |
| 国(独立行政法人を含む)の他の補助金・助成金と同一・類似内容で重複する事業 | 対象外 | 交付決定後に判明した場合は取消しの対象 |
| 公的医療保険・介護保険の診療報酬・介護報酬、固定価格買取制度等と重複するもの | 対象外 | 報酬事業の対象設備と完全に別事業所で分離する場合の例外的取扱いあり |
| 交付決定日より前に契約・発注・支払いをした経費 | 対象外 | 全枠共通の原則 |
| 廃業支援費・在庫廃棄費・解体費・原状回復費・リース解約費・土壌汚染調査費・移転移設費 | 廃業・再チャレンジ枠を併用すれば対象 | 300万円を上限に上乗せ |
とくに誤解が多いのが1行目です。「株式を買い取る資金を補助してほしい」という相談は非常に多いのですが、被承継者に支払う譲受費用は補助対象になりません。この補助金が支援するのは、承継した会社がその後に成長するための投資であって、承継そのものの対価ではないという整理です。
また、よくある誤解としてFAQで明確に否定されているものがあります。事業承継計画書に補助対象設備の投資計画を明示する必要はありません。事業承継計画書と補助事業の計画は別の書類だという整理です。
廃業を伴う場合は廃業・再チャレンジ枠の併用を検討してください。承継を機に不採算の店舗や工場を1つ閉じるといったケースでは、原状回復費や在庫廃棄費を300万円まで上乗せできます。併用申請の場合は廃業・再チャレンジ枠への別申請は不要で、事業承継促進枠への上乗せとして処理されます。ただし在庫を売却して対価を得る場合の処分費、ファイナンスリース取引の解約金・違約金は対象外です。
加点事由と審査の着眼点
審査は資格審査(対象者・対象事業・補助上限額等の適合確認)と書面審査(外部有識者で構成される審査委員会)の2段階です。書面審査の着眼点は【取組の目的・必要性】【取組の実現可能性】【取組の収益性】【取組の継続性】の4点で、事業計画はこの4つに正面から答える構成にしてください。選考にあたって審査料は徴収されず、不採択理由についての個別の問い合わせに事務局は一切応じません。
事業承継促進枠の加点事由は次のとおりです。
| 加点事由 | 備考 |
| 中小企業の会計に関する基本要領・指針の適用 | ー |
| 経営力向上計画の認定、経営革新計画の承認、先端設備等導入計画の認定 | ー |
| 地域おこし協力隊 | 事業承継促進枠のみ |
| 地域未来牽引企業 | ー |
| 健康経営優良法人 | ー |
| サイバーセキュリティお助け隊サービスの利用 | ー |
| (連携)事業継続力強化計画の認定 | ー |
| アトツギ甲子園の出場者 | 事業承継促進枠のみ。代表者予定者を含む |
| ワーク・ライフ・バランス推進(えるぼし認定・くるみん認定等) | ー |
| 賃上げ表明 | 事業承継促進枠は3%以上で上限額引き上げと連動 |
| 成長加速マッチングサービスの会員登録と挑戦課題登録 | 事業承継促進枠のみ |
| 事業承継・引継ぎ支援センターまたは中小機構地域本部の支援を受けた事業承継計画書の策定 | 事業承継促進枠のみ |
| 米国の追加関税措置により大きな影響を受けていること | 事業承継促進枠のみ。16次公募で新規追加 |
この一覧を見ると、事業承継促進枠だけに用意された加点が5つあることがわかります。アトツギ甲子園、地域おこし協力隊、成長加速マッチングサービス、事業承継・引継ぎ支援センター等の支援を受けた計画書策定、そして16次で新設された米国の追加関税措置の影響です。とくに事業承継・引継ぎ支援センターの支援は、全国47都道府県(東京都のみ本部と多摩地域の2拠点で計48拠点)で無料で受けられるため、公募までの期間の使い方として合理的です。
ただし加点は取れば得というものではありません。賃上げのように事業化状況報告で達成状況が確認され、未達なら18か月間のペナルティにつながる項目もあります。達成できる水準で申請してください。
申請の流れとその後の報告義務
申請はJグランツからの電子申請のみで、GビズIDプライムアカウントが必須です。取得には1週間から2週間、混雑時は3週間程度かかります。
| 段階 | 16次公募での時期 | 注意点 |
| 準備 | 受付開始前 | GビズIDプライムの取得、認定経営革新等支援機関への確認依頼、見積の取得 |
| 公募申請 | 2026年10月2日から11月6日17:00 | Jグランツから提出。確認書が必要 |
| 採択 | 2026年12月下旬以降 順次(予定) | 採択は交付申請をする権利の保障であり交付決定ではない |
| 交付申請・交付決定 | 交付申請は2027年1月上旬から11月中旬、交付決定は2027年1月下旬以降(予定) | 交付決定日より前の契約・発注・支払いは補助対象外 |
| 補助事業の実施 | 交付決定日から2028年3月中旬(予定) | 補助事業期間は2027年1月(下旬予定)から14か月以内 |
| 実績報告 | 2027年6月上旬から2028年3月下旬(予定) | 様式第6。完了日から30日経過した日と、交付決定通知書記載の完了期限日から10日経過した日のいずれか早い方まで |
| 額の確定・精算払 | 2027年10月上旬以降 順次(予定) | 様式第7の精算払請求書を提出。実費弁済方式 |
| 事業化状況報告 | 補助事業完了後5年間(合計6回) | 様式第12。毎事業年度終了後90日以内。証拠書類は報告年度終了後5年間保存 |
事業承継促進枠は、4枠のなかでもっとも長く縛りが続く枠です。事業化状況報告は5年間で合計6回、事業承継対象期間は公募申請受付終了日から5年後(16次の場合2031年11月5日)までで、この期間内に承継完了が確認できなければ原則として返還を求められます。承継の完了時期が読めない段階で申請するのはリスクがあります。
申請前の最終チェック
- 承継の相手は親族または従業員か(M&Aによる第三者承継ではないか)
- 経営権と所有権の両方を移すことが計画に織り込まれているか
- 承継予定者が経験要件(3年ルール)または親族要件を満たしているか
- 対象会社は3期分の決算・申告を完了しているか(個人事業主は開業から5年経過しているか)
- 補助額が下限の100万円に届くか
- 被承継者に支払う譲受費用を経費に計上していないか
- 賃上げ要件を表明する場合、3%以上を5年間維持できる見通しがあるか
- 過去に交付を受けた補助金の事業化状況報告を履行しているか
制度全体の流れは事業承継・M&A補助金の完全ガイド、枠の選び方は4つの枠の違いにまとめています。
出典・参考情報
最終更新日: 2026年9月11日。本記事の要件・補助率・上限額は16次公募の事業承継促進枠 公募要領(Ver.1.0)およびよくある質問に基づいています。公募要領は改訂される場合がありますので、申請にあたっては必ず最新版を確認してください。本記事は採択や補助額を保証するものではありません。