専門家活用枠とは|3類型の上限額と登録M&A支援機関
制度・仕組み
公開: 2026年9月11日
更新: 2026年9月11日
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この記事の結論
専門家活用枠は、後継者が社内にいないために第三者へ譲る売り手、あるいは他社を譲り受けて事業を広げたい買い手が使う枠です。M&Aの過程で発生する仲介手数料、デュー・ディリジェンス費用、表明保証保険料などが補助対象になります。
専門家活用枠は1つの枠ではなく3つの公募要領に分かれている
専門家活用枠は、後継者が社内にいないために第三者へ譲る売り手、あるいは他社を譲り受けて事業を広げたい買い手が使う枠です。M&Aの過程で発生する仲介手数料、デュー・ディリジェンス費用、表明保証保険料などが補助対象になります。
ここで最初に押さえるべきは、専門家活用枠には16次公募で3本の公募要領があるという点です。上限額も補助率も要領ごとに異なるため、「専門家活用枠の上限は何万円ですか」という質問には類型を特定しないと答えられません。
| 公募要領 | 収録されている類型 | 補助上限額 |
| requirements_experts_16.pdf(通常版) | 買い手支援類型(Ⅰ型)、売り手支援類型(Ⅱ型) | 600万円(DD費用上乗せで800万円) |
| requirements_experts_10bn_16.pdf | 買い手支援類型(100億企業特例) | 2,000万円 |
| requirements_experts_sb_16.pdf | 小規模売り手支援類型 | 450万円 |
買い手側と売り手側はそれぞれ独立して申請でき、同一案件で双方が申請することも制度上あり得ます。ただし専門家活用枠の3種は互いに同一公募回での重複申請ができません。買い手支援類型の通常版と100億企業特例、小規模売り手支援類型と通常の売り手支援類型は、いずれか一方を選ぶことになります。
採択者は非公表です
専門家活用枠は複数の公募回にわたり「補助事業の特性に鑑み、採択者を非公表とする」と事務局が明記しています。M&Aは当事者の意向が外に出ることを避けたい取引であるためです。したがって採択企業の一覧は公開されておらず、他社の採択事例を調べて判断材料にすることはできません。「専門家活用枠の採択企業リストはこちらで見られる」と書かれている情報源があれば、それは誤りです。
16次公募の申請受付は2026年10月2日(金)から2026年11月6日(金)17:00まで、採択は2026年12月下旬以降、交付決定は2027年1月下旬以降の予定です。補助事業期間は2027年1月(下旬予定)から14か月以内です。
4つの支援類型と補助率・上限額
3本の公募要領に収録された4つの類型を横並びにすると次のとおりです。
| 類型 | 対象 | 補助率 | 下限 | 上限 | DD費用上乗せ | 廃業費併用 |
| 買い手支援類型(Ⅰ型・通常) | 経営資源を譲り受ける予定の中小企業等 | 2/3以内 | 50万円 | 600万円 | 200万円(合計800万円) | 300万円 |
| 売り手支援類型(Ⅱ型・通常) | 経営資源を譲り渡す予定の中小企業等 | 1/2または2/3以内 | 50万円 | 600万円 | 200万円(合計800万円) | 300万円 |
| 買い手支援類型(100億企業特例) | 将来売上高100億円を目指す買い手 | 1,000万円以下は1/2、1,000万円超2,000万円までは1/3 | 50万円 | 2,000万円 | ー | 300万円 |
| 小規模売り手支援類型 | 小規模事業者等に該当する売り手 | 2/3以内 | なし | 450万円 | ー | 150万円 |
この表で見落とされやすいのが小規模売り手支援類型の補助下限額が無いという点です。他の類型は補助額が50万円に届かないと申請できませんが、小規模売り手支援類型にはその制限がありません。補助率2/3で計算すると、他の類型では補助対象経費が75万円以上必要になるところ、小規模売り手支援類型では少額の案件でも使えるということです。小規模な事業の譲渡は取引金額自体が小さく、専門家費用も相対的に小さくなるため、この設計は実態に合っています。
小規模事業者等の定義は従業員数で決まります。製造業その他は20人以下、商業(卸売業・小売業)とサービス業は5人以下、宿泊業・娯楽業は20人以下です。なお専門家活用枠では、小規模事業者等に該当すること自体が加点事由になります。
対象経費は謝金、旅費、外注費、委託費、システム利用料、保険料(表明保証保険)です。廃業費を併用する場合はこれに廃業支援費、在庫廃棄費、解体費、原状回復費、リース解約費、土壌汚染調査費、移転・移設費が加わります。機械設備の購入はこの枠の対象外で、承継後の設備投資はPMI推進枠の事業統合投資類型の管轄です。
買い手支援類型(Ⅰ型・通常)
経営資源を譲り受ける予定の中小企業等が対象です。補助率は2/3以内、補助下限額50万円、補助上限額600万円で、デュー・ディリジェンス費用の上乗せ200万円を含めると最大800万円になります。
この類型で決定的に重要なのが、デュー・ディリジェンスの位置づけです。買い手支援類型ではDDの実施が実質的に必須化されており、公募要領とFAQの双方で専門家によるDD実施の必要性が強調されています。
自社でDDをやると費用が落ちません
デュー・ディリジェンスを専門家に依頼せず自社で実施した場合、DD費用を補助対象経費に計上することはできません。社内に会計士や税理士がいる会社でも、自社で調べた分は経費になりません。上乗せの200万円枠を使うつもりなら、外部の専門家に依頼することが前提になります。
買い手側にはもうひとつ有利な取り扱いがあります。買い手支援類型(Ⅰ型)は、PMI推進枠のPMI専門家活用類型と同一公募回で同時に申請できます。M&Aの成立までを買い手支援類型で、成立後の統合計画づくりをPMI専門家活用類型でカバーするという組み合わせで、補助上限が別立てで積み上がります。ただしPMI推進枠側は、専門家活用枠側のM&Aがクロージングしなかった場合には補助対象外になります。
表明保証保険料については、買い手支援類型では買い手が手配した保険の保険料が対象です。同一案件で買い手と売り手が重複して加入することはできません。どちらが手配するかを事前に決めておく必要があります。
売り手支援類型(Ⅱ型・通常)と補助率の分岐
経営資源を譲り渡す予定の中小企業等が対象です。補助下限額50万円、補助上限額600万円(DD費用上乗せで800万円)は買い手支援類型と同じですが、補助率だけが条件によって変わります。
| 条件 | 補助率 |
| 物価高等の影響で営業利益率が直近事業年度またはその前年同時期と比べて低下している | 2/3以内 |
| 直近決算期の営業利益または経常利益が赤字である | 2/3以内 |
| 上記のいずれにも該当しない | 1/2以内 |
いずれか一方に該当すれば2/3が適用されます。厳しい状況にある事業者ほど手厚くするという設計です。逆に言えば、業績が堅調な会社が譲渡する場合の補助率は1/2にとどまります。この分岐は決算書で機械的に判定されますので、申請前に直近期の営業利益・経常利益と営業利益率の推移を確認してください。
売り手側でもデュー・ディリジェンスの実施と費用計上は制度上可能です。ただし実務上、DDは買い手が対象会社を調べるために行うものであり、売り手側でDD費用を計上するケースは限定的とされています。売り手側の主な支出は仲介手数料やFA報酬、そして表明保証保険料になります。表明保証保険については、売り手支援類型では売り手が手配した保険の保険料が対象です。
売り手の立場から見た専門家活用枠の使い方は会社を売る側の補助金活用、買い手の立場からの使い方は会社を買う側の補助金活用でも扱っています。
小規模売り手支援類型(上限450万円・下限なし)
小規模事業者等に該当する売り手のための類型です。補助率は2/3以内、補助下限額はなし、補助上限額は450万円です。廃業費を併用する場合の上乗せは150万円で、他の類型の300万円より小さく設定されています。
| 項目 | 小規模売り手支援類型 | 売り手支援類型(通常) |
| 対象 | 小規模事業者等に該当する売り手 | 経営資源を譲り渡す予定の中小企業等 |
| 補助率 | 2/3以内 | 1/2または2/3以内(条件により分岐) |
| 補助下限額 | なし | 50万円 |
| 補助上限額 | 450万円 | 600万円(DD費用上乗せで800万円) |
| 廃業費併用の上乗せ | 150万円 | 300万円 |
| クロージング不成立時の上限 | 50万円 | 300万円 |
| 同時申請 | 通常の売り手支援類型との同時申請は不可 | 小規模売り手支援類型との同時申請は不可 |
小規模事業者等に該当する売り手は、通常の売り手支援類型と小規模売り手支援類型のどちらを選ぶかを判断する必要があります。判断材料は次のとおりです。
- 専門家費用が少額(補助額50万円未満)にとどまる見込みなら小規模売り手支援類型。通常版は下限50万円があるため、そもそも申請できません
- 補助率で見ると小規模売り手支援類型が有利。通常版は業績条件に該当しなければ1/2ですが、小規模売り手支援類型は無条件で2/3です
- 専門家費用が大きくなる見込みなら通常版。上限が600万円(DD費用上乗せで800万円)まで伸びます
- 廃業費を大きく使うなら通常版。上乗せが300万円と、小規模売り手支援類型の150万円の倍あります
小規模事業者等の定義は従業員数(製造業その他20人以下、商業とサービス業5人以下、宿泊業・娯楽業20人以下)ですので、まず自社がこの区分に入るかを確認してください。
買い手支援類型 100億企業特例(上限2,000万円)
将来売上高100億円を目指す買い手のための特例で、補助上限額は2,000万円と本補助金のなかで最大です。補助率は金額帯で段階的に下がります。
| 補助対象経費の金額帯 | 補助率 |
| 1,000万円以下の部分 | 1/2 |
| 1,000万円超2,000万円までの部分 | 1/3 |
通常の買い手支援類型の補助率が2/3であるのに対し、100億企業特例は1/2からのスタートです。補助率だけを見れば通常版のほうが有利で、特例は「大きな金額を使う場合に総額の上限が高い」ことに意味があります。専門家費用の見込みが600万円から800万円の範囲に収まるなら、通常版のほうが手取りが大きくなる可能性があります。
不採択でも通常版へは移行しません
100億企業特例と通常の買い手支援類型(800万円枠)は、同一公募回での同時申請ができません。そして100億企業特例で不採択となっても、通常の買い手支援類型へ自動的に移行されることはありません。通常版で申請し直す場合は、次の公募回で改めて申請することになります。どちらで出すかは慎重に決めてください。
100億企業特例にはもうひとつ、他の類型にない返還リスクがあります。事業化状況報告において、被承継者の従業員数が実績報告時より減少していた場合、減少率に応じた返還を求められます。買収した会社の雇用を維持することが実質的な条件になっているということです。事業化状況報告は補助事業完了後3年間(合計4回)続きますので、その期間を通じて雇用の推移が見られることになります。
なお、100億企業特例にはデュー・ディリジェンス費用のみで申請するケースについての規定もあります。詳細は該当する公募要領(requirements_experts_10bn_16.pdf)で確認してください。
FA・仲介手数料の絶対条件(登録M&A支援機関)
専門家活用枠を使ううえで、もっとも事故が多いのがここです。委託費のうちFA業務・仲介業務に係る相談料・着手金・中間報酬・成功報酬等は、M&A支援機関登録制度に登録された登録FA・仲介業者が支援したものに限り補助対象になります。未登録業者への支払いは全額が対象外です。
| 条件 | 内容 | 外した場合 |
| 支払先 | M&A支援機関登録制度に登録された業者であること | 全額が補助対象外 |
| 相見積りの相手 | 相見積りを取る相手も登録FA・仲介業者であること | 補助対象外 |
| 業者の選定 | 相見積りで最低価格を提示した業者を選ぶこと | 最低価格を提示していない業者を選んだ場合は補助対象外(16次公募 専門家活用枠FAQ) |
| 中間報酬の根拠 | 基本合意書の締結が、専門家契約の締結後かつ補助事業期間内であること | 原則対象外 |
| 成功報酬の根拠 | 最終契約の締結が、専門家契約の締結後かつ補助事業期間内であること | 原則対象外 |
| 契約日の後付け | 覚書等で契約日を補助事業期間内に延長する行為 | 原則不可 |
3行目の条件は見落とされやすい割に影響が大きい規定です。相見積りを取ったうえで、価格以外の理由(実績や相性)でより高い業者を選ぶことは商取引としてはあり得る判断ですが、この補助金では対象外になります。相見積りは「取っておけばよい」ものではなく、最低価格の業者を選ぶことまでが条件だと理解してください。
4行目と5行目も実務では厄介です。M&Aの交渉は補助金の日程とは無関係に進みます。すでに基本合意まで進んでいる案件について、後から専門家と契約して報酬を補助対象にしようとしても、専門家契約の締結が基本合意より後になっていれば「単なる契約の遅滞」と判断されて対象外になり得ます。補助金を使うつもりがあるなら、専門家との契約を先に済ませてから交渉の節目を迎える順番にしてください。
登録の有無は中小企業庁のM&A支援機関登録制度のデータベースで確認できます。「中小M&Aガイドライン」(第3版)の遵守を宣言した登録機関には「第3版対応」の表示があります。手数料の扱いはM&A仲介手数料と補助金、DD費用はデューデリジェンス費用と補助金でも詳しく扱っています。
クロージングしなかった場合の扱い
M&Aは交渉が決裂することがあります。補助事業期間内に経営資源の引継ぎ(クロージング)が実現しなかった場合、補助上限額は次のように縮小されます。
| 類型 | クロージングした場合の上限 | クロージングしなかった場合の上限 |
| 買い手支援類型(通常) | 600万円(DD費用上乗せで800万円) | 300万円 |
| 売り手支援類型(通常) | 600万円(DD費用上乗せで800万円) | 300万円 |
| 買い手支援類型(100億企業特例) | 2,000万円 | 300万円 |
| 小規模売り手支援類型 | 450万円 | 50万円 |
加えて、クロージングしなかった場合は原則としてデュー・ディリジェンス費用のみが補助対象経費になります。着手金や中間報酬は対象から外れると考えてください。制度としては「調べた結果、買わないという判断に至った」ことまでは支援するが、成立しなかった案件の仲介費用まで面倒は見ないという整理です。
資金計画は縮小後の金額で立てる
とくに100億企業特例は、上限2,000万円が300万円まで落ちます。差は1,700万円です。M&Aの成立確度が高くない段階で大型の専門家費用を積み上げると、不成立時の自己負担が一気に膨らみます。補助金の支払いは実費弁済方式(精算払い)で、事業費はいったん全額を自己資金で立て替える必要があることもあわせて考慮してください。
PMI推進枠と同時申請している場合はさらに影響が及びます。専門家活用枠側のM&Aがクロージングしなかった場合、PMI推進枠側も補助対象外になります。統合作業の前提となるM&Aが成立していないのだから当然ではありますが、2つの枠の運命が連動している点は認識しておいてください。
申請の流れと採択後の義務
申請はJグランツからの電子申請のみで、GビズIDプライムアカウントが必須です。取得には1週間から2週間、混雑時は3週間程度かかります。加えて認定経営革新等支援機関による確認書が必要で、専門家活用枠では計画内容の確認という位置づけです。
| 段階 | 16次公募での時期 | 注意点 |
| 公募申請 | 2026年10月2日から11月6日17:00 | 3本の要領のうちどれで申請するかを先に決める |
| 採択 | 2026年12月下旬以降 順次(予定) | 採択者は非公表 |
| 交付申請・交付決定 | 交付決定は2027年1月下旬以降(予定) | 交付決定日より前の契約・発注・支払いは補助対象外 |
| 補助事業の実施 | 2027年1月(下旬予定)から14か月以内 | この期間内にクロージングできるかで上限額が変わる |
| 実績報告 | 様式第6 | 完了日から30日経過した日と、交付決定通知書記載の完了期限日から10日経過した日のいずれか早い方まで |
| 額の確定・精算払 | 2027年10月上旬以降 順次(予定) | 様式第7。実費弁済方式で、見積より安く済めば実費分のみ |
| 事業化状況報告 | 補助事業完了後3年間(合計4回) | 様式第12。毎事業年度終了後90日以内。証拠書類は報告年度終了後5年間保存 |
加点事由については、専門家活用枠は事業承継促進枠とは一部が異なります。アトツギ甲子園、地域おこし協力隊、成長加速マッチングサービス、事業承継・引継ぎ支援センターの支援を受けた計画書策定は、専門家活用枠の加点事由には含まれません。一方、小規模事業者等に該当すること自体が加点事由になる点は専門家活用枠の特徴です。賃上げ表明は、事業承継促進枠のように上限額の引き上げとは連動せず、2%以上で加点事由という扱いになります。
申請前の最終チェック
- 使う類型を決めたか(通常版・100億企業特例・小規模売り手支援類型は同時申請不可)
- 依頼するFA・仲介業者はM&A支援機関登録制度に登録されているか
- 相見積りの相手も登録業者で、最低価格の業者を選んでいるか
- 専門家契約の締結が、基本合意や最終契約より前になる順番で進められるか
- デュー・ディリジェンスを外部の専門家に依頼する計画になっているか
- クロージングしなかった場合の縮小後の上限で資金計画が成り立つか
- 表明保証保険を買い手と売り手で重複加入していないか
- 過去に交付を受けた補助金の事業化状況報告を履行しているか
枠の選び方は4つの枠の違い、制度全体は事業承継・M&A補助金の完全ガイドにまとめています。
出典・参考情報
最終更新日: 2026年9月11日。本記事の補助率・上限額・要件は16次公募の専門家活用枠 公募要領(Ver.1.0・通常版/100億企業特例/小規模売り手支援類型)およびよくある質問に基づいています。公募要領は改訂される場合がありますので、申請にあたっては必ず該当する類型の最新版を確認してください。本記事は採択や補助額を保証するものではありません。