表明保証保険は補助金の対象|専門家活用枠の保険料区分
申請実務
公開: 2026年9月11日
更新: 2026年9月11日
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この記事の結論
事業承継・M&A補助金の専門家活用枠では、補助対象経費が謝金・旅費・外注費・委託費・システム利用料・保険料の6区分で定められています。このうち保険料の区分は表明保証保険の保険料を指しています。
表明保証保険の保険料は専門家活用枠の「保険料」区分そのもの
事業承継・M&A補助金の専門家活用枠では、補助対象経費が謝金・旅費・外注費・委託費・システム利用料・保険料の6区分で定められています。このうち保険料の区分は表明保証保険の保険料を指しています。M&A関連費用のなかで、仲介手数料やDD費用と並んで明示的に区分が用意されている費目です。
中小企業のM&Aでは、買収後に簿外債務や未払残業代、係争が判明するリスクが常にあります。表明保証条項はそのリスクを契約上で手当てする仕組みですが、実際に違反が判明しても売り手に支払能力が残っていなければ回収できません。表明保証保険は、この回収不能のリスクを保険でカバーする商品です。
この記事で押さえる4点
- 保険料はどの枠・どの類型で計上できるのか
- 買い手手配と売り手手配の区別、そして重複加入の禁止
- 補助率と上限額、モデルケースでの自己負担
- 交付決定後の契約という制約と、保険の付保タイミングの実務
16次公募(令和7年度補正予算)の公募要領は2026年9月4日に開示されました。公募申請の受付期間は2026年10月2日(金)から2026年11月6日(金)17時までで、2026年9月11日時点では受付はまだ始まっていません。枠の全体像は4つの枠の違い、経費区分の全体像は対象経費の枠別整理で確認できます。
表明保証保険とは何か、なぜM&Aで使われるのか
表明保証保険は、M&Aの最終契約に定めた表明保証条項に違反があった場合、そこから生じる損害を保険でてん補する商品です。買い手が自ら加入する形(買い手手配)と、売り手が加入する形(売り手手配)があります。中小企業のM&Aで問題になりやすいのは、次のような場面です。
| 場面 | 表明保証条項だけの場合の課題 | 保険がある場合 |
| 買収後に簿外債務が判明 | 売り手に請求しても資力がなければ回収できない | 保険金による回収の余地が生まれる |
| 未払残業代が後から発覚 | 売り手個人への請求は関係悪化を招きやすい | 売り手との関係を維持したまま処理できる余地がある |
| 売り手が引退・高齢で資力が限られる | 補償の実効性が確保しにくい | 補償の裏づけを保険で確保する設計が可能 |
| 売り手が譲渡代金を早期に確定させたい | 補償留保のため代金の一部を留め置く交渉になりやすい | 留保を減らす交渉材料になり得る |
中小企業のM&A件数そのものは増加傾向にあります。M&A支援機関登録制度に登録された支援機関からの報告ベースでは、譲渡側の件数が2022年度4,036件、2023年度4,681件、2024年度4,940件と推移しています(譲受側は2022年度3,871件、2023年度4,505件、2024年度4,708件)。これは登録支援機関経由の報告ベースの数値であり日本の中小M&A全体ではありませんが、件数の増加に伴って買収後のトラブルへの備えが実務課題として意識されるようになった背景がうかがえます。
上記は表明保証保険という商品の一般的な性格を整理したものであり、補助金の公募要領が定めている内容ではありません。保険の対象範囲・免責・保険料の水準は商品ごとに異なるため、具体的な条件は引受保険会社や代理店に確認してください。補助金の側で定められているのは、あくまで「保険料が補助対象経費の区分に含まれる」という点と、誰が手配した保険料が対象になるかという点です。
なお、表明保証保険はデューデリジェンスの代わりになるものではありません。むしろDDで洗い出した論点が保険の引受条件に反映されるため、実務上は両者がセットで検討されます。DD費用の扱いはデューデリジェンス費用と補助金にまとめています。
専門家活用枠の6区分における保険料の位置づけ
専門家活用枠の対象経費は次の6区分です。廃業費を併用申請する場合は、これに廃業・再チャレンジ枠の7区分が加わります。
| 区分 | 想定される内容 | 主な注意点 |
| 謝金 | 専門家への謝礼 | 交付決定後の支出であること |
| 旅費 | M&Aに係る移動費用 | 補助事業に直接必要な範囲に限られる |
| 外注費 | 業務の外部委託 | 委託費との区分を要領に沿って整理する |
| 委託費 | FA業務・仲介業務に係る相談料、着手金、中間報酬、成功報酬、DD費用等 | FA・仲介業務は登録M&A支援機関への支払いのみが対象 |
| システム利用料 | M&Aマッチングプラットフォーム等の利用料 | 交付決定後の利用分であること |
| 保険料 | 表明保証保険の保険料 | 買い手・売り手の重複加入は不可 |
保険料が独立した区分として置かれていることには意味があります。委託費に含めてしまうと、FA・仲介業務に係る費用に課せられている登録M&A支援機関の要件や相見積りの要件と混同されかねません。保険料は保険会社または代理店に支払う費用であり、委託費とは性質が異なります。申請書類でも、見積・契約・請求の証憑を委託費とは分けて整理してください。
全枠共通の大原則
売上原価に相当する経費は全枠共通で対象外です。また、国(独立行政法人を含む)の他の補助金・助成金と同一・類似内容で重複する事業は対象外で、交付決定後に判明した場合は取消しの対象になります。保険料についても、他の公的支援で同じ費用の補助を受けていないかを確認してください。
買い手手配と売り手手配、そして重複加入の禁止
表明保証保険の保険料をどちらが計上できるかは、申請する類型で決まります。
| 類型 | 対象になる保険料 | 補助率 | 補助上限額 |
| 買い手支援類型(Ⅰ型・通常版) | 買い手が手配した表明保証保険の保険料 | 2/3以内 | 600万円(DD費用がある場合は+200万円で800万円) |
| 売り手支援類型(Ⅱ型・通常版) | 売り手が手配した表明保証保険の保険料 | 1/2または2/3以内 | 600万円(DD費用がある場合は+200万円で800万円) |
| 買い手支援類型(100億企業特例) | 買い手が手配した保険料 | 1,000万円以下は1/2、1,000万円超〜2,000万円は1/3 | 2,000万円 |
| 小規模売り手支援類型 | 売り手が手配した保険料 | 2/3以内 | 450万円 |
同一案件で買い手と売り手が重複して加入することはできません。実務上、どちらが手配するかは交渉事項です。買い手が主導して手配するケースが一般的とされますが、売り手側が譲渡代金の留保を避けたいという動機から手配することもあります。補助金の観点では、手配した側の類型で保険料を計上する、という整理になります。
売り手支援類型の補助率が2/3になるのは、①物価高等の影響で営業利益率が直近事業年度またはその前年同時期と比べて低下している、②直近決算期の営業利益または経常利益が赤字である、のいずれかに該当する場合です。いずれにも該当しない場合は1/2以内です。
類型の重複申請はできない
専門家活用枠の3系統(通常版・100億企業特例・小規模売り手支援類型)は、同一公募回で互いに重複して申請することができません。買い手支援類型の800万円枠と100億企業特例は同時申請不可で、100億企業特例で不採択になっても通常枠に自動的に移行はしません。小規模売り手支援類型と通常の売り手支援類型も、どちらか一方を選びます。
買い手側・売り手側それぞれの全体設計は会社を買う側が使える補助金と会社を売る側が使える補助金で扱っています。
モデルケースで見る保険料の自己負担
買い手支援類型(通常版・補助率2/3)で、仲介手数料・DD費用・保険料を合わせて申請した場合の計算の考え方を示します。以下はモデルケースであり、採択や補助額を保証するものではありません。
| 項目 | 金額 | 計上区分 |
| 登録M&A支援機関への仲介手数料 | 750万円 | 委託費 |
| 財務・税務・法務のDD費用 | 300万円 | 委託費 |
| 表明保証保険の保険料 | 150万円 | 保険料 |
| 補助対象経費の合計 | 1,200万円 | — |
| 補助率2/3を乗じた額 | 800万円 | — |
| 適用される補助上限額 | 800万円(600万円+DD上乗せ200万円) | — |
| 補助見込額 | 800万円 | — |
| 自己負担の目安 | 400万円 | — |
保険料そのものに専用の上乗せ枠はありません。上限を押し上げるのはDD費用の200万円上乗せであり、保険料はあくまで対象経費の一部として合算されます。したがって、保険料を計上するかどうかは「上限が上がるか」ではなく「補助対象経費の総額に対して上限が余っているか」で効いてきます。上の例のように上限に達している場合、保険料を積んでも補助見込額は増えません。
補助金は精算払い
採択されても、まず自社で全額を支払い、実績報告と補助金額の確定を経てから交付されます。見積より安く済んだ場合は実費分のみが交付され、超過交付があれば返還命令の対象となり、未納の場合は年利10.95%の延滞金が課されます。保険料は一時払いのことが多いため、立替の資金計画に入れておいてください。
金額の全体像は補助率と上限額で整理しています。
PMI推進枠では計上できない、どの枠で申請するかの整理
M&A関連費用をどの枠で申請するかは、事業承継・M&A補助金でもっとも間違いが起きやすい論点です。保険料についても同じ整理が必要になります。
| 枠・類型 | M&A関連費用の扱い | 保険料の計上 |
| 専門家活用枠(買い手・売り手・小規模売り手) | 謝金・旅費・外注費・委託費・システム利用料・保険料の6区分 | 可(手配した側の類型で) |
| PMI推進枠 PMI専門家活用類型 | PMI計画の策定・実行に係る専門家活用費用 | 要領に保険料の区分の記載は確認できない |
| PMI推進枠 事業統合投資類型 | 設備費・外注費・委託費。ただしM&A仲介手数料・DD費用・M&Aコンサルティング費用・PMI専門家への手数料は対象外 | M&A関連費用は専門家活用枠側で計上する整理 |
| 事業承継促進枠 | 承継を契機とした取組に要する経費。M&Aによる第三者承継は枠の対象外 | M&A関連費用の計上は想定されていない |
| 廃業・再チャレンジ枠 | 廃業支援費・在庫廃棄費・解体費・原状回復費・リース解約費・土壌汚染調査費・移転移設費の7区分 | — |
とくに注意したいのは事業承継促進枠です。この枠は親族内承継・従業員承継を対象としており、M&Aによる第三者承継は対象外です。第三者へ株式を譲渡する取引に伴う表明保証保険の保険料を事業承継促進枠で申請することはできません。枠の選択を誤ると、経費区分の議論以前に不採択・対象外になります。
また、専門家活用枠の買い手支援類型とPMI推進枠のPMI専門家活用類型は、同一公募回での同時申請が可能です。ただし専門家活用枠側のM&Aがクロージングしなかった場合、PMI推進枠側も補助対象外になります。詳しくはPMI推進枠の対象と要件を参照してください。
交付決定後という制約と、保険の付保タイミング
補助金の実務でもっとも難しいのが、契約と支払いのタイミングです。原則として、交付決定日以降の契約・発注かつ補助事業期間内に支払いが完了しているものだけが補助対象経費になります。採択は交付申請をする権利の保障であって交付決定ではありません。
一方、表明保証保険は最終契約の締結に合わせて付保するのが通常です。M&Aの交渉は補助金の日程に合わせて止められるものではないため、ここで衝突が起こります。16次公募の場合、採択は2026年12月下旬以降に順次、交付決定は2027年1月下旬以降に順次と予定されています。
| 実務上の場面 | 補助金との関係 | とるべき対応 |
| 交付決定前に保険契約を締結・保険料を支払った | 原則として対象外 | 交付決定の予定時期を保険手配の前提に組み込む |
| 採択通知を受けた段階で発注した | 採択は交付決定ではないため原則対象外 | 交付決定通知を必ず確認してから契約する |
| 最終契約が交付決定前に来てしまう | 成功報酬等も含めて対象外になり得る | 公募回の選択自体を見直す(次回公募での申請も検討する) |
| 補助事業期間内に支払いが終わらない | 対象外 | 補助事業期間は2027年1月下旬予定から14か月以内を想定 |
FA業務・仲介業務の中間報酬・成功報酬については、基本合意書の締結(中間報酬の根拠)や最終契約の締結(成功報酬の根拠)が補助事業期間内かつ専門家契約の締結後に行われている必要があります。専門家契約の締結前にすでに基本合意や最終契約を結んでいた場合は原則として対象外で、覚書等で契約日を期間内に延長する行為も原則として認められません。保険の付保時期も、この一連のスケジュールと整合させる必要があります。
交付決定前の契約についての考え方は交付決定前の契約はどこまで許されるかで詳しく扱っています。
クロージングしなかった場合、保険料はどうなるか
専門家活用枠には、M&Aが成立しなかった場合の規定があります。補助事業期間内に経営資源引継ぎ(クロージング)が実現しなかった場合、補助上限額が縮小され、原則としてDD費用のみが補助対象経費となります。
| 類型 | クロージング成立時の上限 | クロージング不成立時の上限 | 不成立時の対象経費 |
| 買い手支援類型(通常版) | 600万円(DD上乗せで800万円) | 300万円 | 原則DD費用のみ |
| 売り手支援類型(通常版) | 600万円(DD上乗せで800万円) | 300万円 | 原則DD費用のみ |
| 買い手支援類型(100億企業特例) | 2,000万円 | 300万円 | 原則DD費用のみ |
| 小規模売り手支援類型 | 450万円 | 50万円 | 原則DD費用のみ |
この規定は保険料にとって重要です。不成立時に残るのは原則としてDD費用のみとされているため、表明保証保険の保険料を当てにした資金計画は成り立ちません。もっとも、表明保証保険は最終契約の締結に伴って付保するものであり、クロージングに至らない案件ではそもそも保険料が発生しないケースが多いと考えられます。
事業化状況報告の義務
専門家活用枠(買い手・売り手・小規模売り手)の事業化状況報告は、補助事業完了後3年間(合計4回)です。毎事業年度終了後90日以内に様式第12で提出し、証拠書類は報告年度終了後5年間の保存義務があります。100億企業特例では、事業化状況報告で被承継者の従業員数が実績報告時より減少していた場合、減少率に応じた返還が求められます。
報告義務の詳細は事業化状況報告にまとめています。
保険料を補助対象として残すための実務チェックリスト
保険料は金額が読みにくく、証憑の形式も委託費とは異なります。実績報告で確定額から落とされないために、次の点を確認してください。
| 確認項目 | 内容 |
| 申請する類型 | 買い手支援類型・売り手支援類型・小規模売り手支援類型・100億企業特例のいずれか。同一公募回で重複申請は不可 |
| 手配者の一致 | 買い手支援類型なら買い手が手配した保険、売り手支援類型なら売り手が手配した保険であること |
| 重複加入の有無 | 同一案件で買い手と売り手が重複して加入していないこと |
| 契約日 | 交付決定日以降であること |
| 支払日 | 補助事業期間内に支払いが完了していること |
| 証憑 | 見積書、保険契約の申込書類、保険証券、請求書、振込記録がそろっていること |
| 他制度との重複 | 同一・類似内容で国の他の補助金・助成金を受けていないこと |
| GビズIDプライム | 取得済みであること(取得に1〜2週間、混雑時は3週間程度) |
| 認定経営革新等支援機関の確認書 | 計画内容の確認を受けていること。締切直前は依頼が間に合わないことがある |
もうひとつ実務でつまずきやすいのが、申請者の資格そのものです。中小企業者等の定義は中小企業基本法第2条に準拠し、業種別に資本金・従業員数の基準が定められています。親会社が議決権の50%超を持つ子会社等のみなし大企業・みなし同一法人は対象外です。また、社会福祉法人・医療法人・一般社団法人・一般財団法人・学校法人・農事組合法人・組合等の法人格、および法人格のない任意団体も対象外とされています。保険料の区分を精査する前に、この入口の要件を確認してください。
実績報告は、補助事業完了日から30日経過した日、または交付決定通知書に記載された補助事業完了期限日から10日経過した日のいずれか早い方までに様式第6で提出します。事務局が書類審査や現地調査等を行って交付すべき補助金の額を確定し、そのうえで様式第7の精算払請求書を提出して支払いを受けます。正当な理由なく実績報告の期限に提出しない場合は、原則として交付決定の取消しの対象です。
必要書類は枠別の必要書類、確認書の取り方は認定支援機関の確認書で扱っています。
16次公募のスケジュールと保険手配の段取り
16次公募(令和7年度補正予算)の日程は次のとおりです。いずれも事務局が公表している予定であり、確定次第更新されます。
| 項目 | 時期 |
| 公募要領開示・サイト開設 | 2026年9月4日(金) |
| 説明会申込受付 | 2026年9月9日(水)〜10月7日(水)17時まで |
| 説明会 | 2026年10月9日(金)14時からオンライン開催 |
| 公募申請受付期間 | 2026年10月2日(金)〜2026年11月6日(金)17時まで |
| 採択日 | 2026年12月下旬以降 順次(予定) |
| 交付決定日 | 2027年1月下旬以降 順次(予定) |
| 事業実施期間 | 交付決定日〜2028年3月中旬(予定) |
| 実績報告期間 | 2027年6月上旬〜2028年3月下旬(予定) |
| 補助金交付手続き | 2027年10月上旬以降 順次(予定) |
説明会は専門家活用枠、PMI推進枠、事業承継促進枠、廃業・再チャレンジ枠の順に説明され、各15分から55分の構成です。表明保証保険を検討している場合は、専門家活用枠のパートを確認しておくとよいでしょう。
採択率については、現ブランドの事業承継・M&A補助金となった11次公募から14次公募まで、いずれも60.7%から61.0%の範囲で推移しています。12次公募では専門家活用枠に436件の申請があり266件が採択、13次公募では267件の申請に対し163件が採択、14次公募では299件の申請に対し180件が採択されています。ただし専門家活用枠については、補助事業の特性に鑑み採択者を非公表とする扱いが複数回にわたって明記されており、採択企業の一覧を確認することはできません。
日程の詳細は16次公募のスケジュール、採択率の推移は採択率の推移で確認できます。
出典・参考情報
最終更新日: 2026年9月11日。本記事は16次公募要領(Ver.1.0・2026年9月4日開示)および事務局公表情報に基づいています。表明保証保険の商品性・引受条件・保険料水準は引受保険会社により異なり、本記事では扱っていません。日程・要件は変更される場合がありますので、必ず各公式サイトで最新情報を確認してください。本記事のシミュレーションはモデルケースであり、採択や補助額を保証するものではありません。